ニュースの概要
自転車大手のGiantと、女性向けブランドのLivが、電動マウンテンバイクの新型TranceとIntrigueを発表した。最大トルクは120Nm、ピーク出力は850Wとされる。モーターはYamahaとの共同開発を含むSyncDrive Pro 4を採用した。目玉は、後輪の空転を抑えるトラクションコントロールの新搭載である。トルクを基準に制御し、ペダルを踏み出す前から働く「ゼロケイデンス」設計とされ、急な登り坂や濡れた路面でも駆動力を保つことを狙う。走破性を電子制御で底上げする発想だ。元記事は週次の電動自転車ニュースの一項目として扱っている。
引用元: GiantとLiv、新型e-MTBにトラクションコントロールを搭載(Electric Bike Report)
分析・見解
ペダルを踏む前から空転を抑える、ゼロケイデンス設計
従来のe-MTBは、ペダルを回す速さ(ケイデンス)や踏力を見て、モーターの力を決めてきた。後輪が滑ると、ライダーは反射的に踏む力を抜く。すると今度はモーターの補助も弱まり、さらに失速する。急坂で止まってしまう典型的な悪循環である。
今回のトラクションコントロールは、トルクを基準にし、ペダルが止まった状態からでも働くとされる。踏み込む前に駆動力の上限を管理できれば、出だしの一瞬から空転を抑えられる。自動車で、発進時にタイヤが滑らないよう電子制御が先回りするのと同じ発想だ。
120Nmの大トルクは、制御があって初めて使いこなせる
最大トルク120Nmは、自転車用としてはかなり大きい。登坂では武器になるが、濡れた木の根や砂利の上では、タイヤを空転させる原因にもなる。力が強いほど、路面に伝えきれない場面は増える。
つまり、モーターの高出力化は、制御技術の進歩とセットでなければ意味が薄い。出力競争が一巡した今、差がつくのは「出せる力」ではなく「路面に伝えられる力」だ。制御ソフトの出来が、商品の評価を左右する段階に入ったと言える。
他社の電動アシスト制御と比べて見える、今回の新しさ
BoschやShimanoなどの競合は、踏力に応じて補助を自動で変えるモードや、専用アプリによる細かな調整で差別化を進めてきた。ただ、後輪の空転そのものを狙い撃ちする機能は、まだ一般的とは言いにくい。
ここで見逃せないのが、二輪車のモーターで長い経験を持つYamahaとの共同開発である。オートバイは、エンジンの時代からトラクションコントロールを磨いてきた。その知見が自転車へ降りてきたと読むこともできる。
競技者より中級者の安心にこそ、この機能の価値がある
筆者の見方では、この機能の本当の価値は、上級者の速さよりも中級者の安心にある。急坂で空転して止まり、足をついて転ぶ。こうした小さな失敗が、e-MTBから離れる大きな理由になりやすい。失敗が減れば、競技志向ではない層も山道へ出やすくなる。
一方で、制御が助けるぶん、荷重移動の感覚が育ちにくいという副作用も考えられる。上級者が機能を切れるか、介入の強さを選べるかは、評価の分かれ目になるだろう。
ビジネスへの影響
試乗コースを工夫して、制御の効果を体感してもらう
新機能は、カタログの数字だけでは伝わりにくい。販売店は、濡れた坂道や砂利道など、空転が起きやすい場所を使った試乗コースを用意すると効果的だ。同じ坂を制御ありとなしで比べてもらえば、価格差の理由を納得してもらいやすい。
スタッフ向けには、機能の切り替え方、反応しやすい路面、タイヤ空気圧との関係を一枚にまとめた資料があるとよい。説明が統一されれば、接客の質も安定する。
ガイド付きツアーでは転倒と待ち時間の減少が期待できる
山岳観光やレンタルe-MTBツアーを運営する事業者は、利用者の技量差が大きい。登りで止まる客が減れば、ガイドの待ち時間が減り、催行の効率が上がる。転倒が減れば、保険料や事故対応の費用にも良い影響が出る可能性がある。
ただし、車両の更新には費用がかかる。まず一部の車両で比較導入し、事故件数と顧客満足度を記録するのが現実的だ。
導入前に確かめたい、気候・電池・保守の三点
一つ目は、日本の地形や気候で効果が出るかどうかだ。雨の多い山や火山灰土の道では差が出やすいが、乾いた舗装路ではほとんど関係しない。二つ目は、電池の持ちへの影響である。三つ目は保守体制で、制御ソフトの更新や不具合に、国内の販売網がどこまで対応できるかを確認したい。正式な価格と発売時期は現時点では分からないため、仕入れの判断は公式発表の後に行うべきだ。