ニュースの概要
米国各地で、若者によるe-Bikeや高出力の電動バイクの危険な走行が社会問題になっている。Bloombergによれば、2017年から2024年にかけてe-Bike関連の救急外来受診は15万5,000件を超え、死亡も300人以上にのぼった。カリフォルニア州では衝突による負傷者が2020年の2人から2024年には1,566人に急増している。こうした事態を受け、自治体や州政府は車両の区分や速度の上限、年齢制限、保護者の責任などを見直し始めた。ニュージャージー州では15歳未満の利用を制限する動きも出ている。
引用元: 米国で若者の危険なe-Bike利用を受け、自治体が規制強化(Bloomberg)
分析・見解
負傷者2人から1,566人へ、数字が示す本当の変化
カリフォルニア州の負傷者数は、2020年の2人から2024年には1,566人へと増えた。単純計算で700倍以上である。ただし、これをそのまま「e-Bikeが急に危険になった」と読むのは早すぎる。
2020年は、事故の記録方法そのものが整っていなかった可能性が高い。警察の報告書に「e-Bike」という欄ができたのは最近のことで、以前は普通の自転車として処理されていた事故も多いはずだ。つまり増加の一部は、数え方が変わったことによる見かけの増加である。それでも、全米で救急外来が15万5,000件を超えたという数字は、記録の問題だけでは説明がつかない。普及台数が増え、乗る人の層が広がったことが主因と見るのが妥当である。
問題の中心は「自転車の見た目をした原付」にある
今回の規制論議で見落とされやすいのが、車両そのものの変質である。もともとe-Bikeは、ペダルをこぐ力を電気で補助する乗り物だった。ところが近年は、ペダルが飾りに近く、アクセルをひねるだけで時速50キロ前後まで出る車種が増えている。見た目は自転車でも、中身は小型のオートバイに近い。
米国ではe-Bikeを時速32キロまでなど3つの等級に分ける州が多い。だが、この区分を超える高出力車がネット通販で自由に買える。区分の外にある車両が、法律上は自転車扱いのまま歩道や自転車道を走っているのだ。若者の事故が増えた背景には、本人の無謀さだけでなく、制度の穴を突いた商品設計がある。
免許もヘルメットも要らない手軽さが、リスクを押し上げる
自動車なら、免許の取得という段階を踏んで運転を覚える。e-Bikeにはその関門がない。13歳でも買えて、ヘルメットを義務づけない州も多い。スピードが出る乗り物に、訓練なしで乗れてしまう。
日本でも似た構図がある。電動キックボードは2023年に免許不要の区分ができ、特定小型原動機付自転車として16歳以上が乗れるようになった。導入後は交通違反の摘発が増え、ルールの周知不足が課題になった。米国の若者のe-Bike問題は、日本の電動キックボードで起きたことの、より重い版と言える。
規制は「本人」から「親」と「売り手」へ広がっている
Bloombergの記事で注目すべきは、規制の対象が乗り手だけにとどまらない点である。車両の販売店や、子どもに買い与える保護者にも責任を問う動きが出ている。
酒やたばこが年齢確認で売り手を縛るのと同じ発想だ。今後は、高出力車を未成年に売った店への罰則や、保護者への過料、学校を通じた安全教育の義務化が進むだろう。規制の網は、利用者から流通へと上流にさかのぼっていく。この流れは米国だけで終わらず、他国の議論にも影響するはずである。
ビジネスへの影響
販売店とメーカーは「売らない判断」を持つ必要がある
電動モビリティを扱う事業者にとって、最初の課題は年齢確認と車種の分類である。高出力車を未成年が買える状態のまま放置すれば、事故のたびに販売責任を問われかねない。購入時の年齢確認、速度制限のかかった若年向けモードの標準搭載、保護者向けの説明書面の用意は、今のうちに整えておきたい。
あわせて、自社の商品が法律上どの区分に入るのかを、定期的に点検することが欠かせない。規制は州や市ごとにばらばらで、昨日まで合法だった仕様が突然対象外になる場合もある。仕様変更に素早く対応できる設計体制が、競争力の差になる。
保険と施設管理で、新しい需要が生まれる
規制が強まると、守る側の市場が育つ。若者向けの傷害保険、第三者への賠償を補う保険、速度を自動で抑える機器などだ。学校や集合住宅、観光地の事業者も、構内での走行ルールや充電場所の管理を求められる。バッテリー火災の対策とあわせ、安全管理を支援するサービスは伸びしろが大きい。
日本の事業者にとっては、規制が固まる前の今が好機である。海外の規制動向を早めに集め、国内の販売方針や保険商品に反映させる。後追いで対応するより、先に安全基準を示した企業のほうが、行政や保護者からの信頼を得やすい。