ニュースの概要
中国・山東省臨沂市の電動自転車メーカー、Linyi Lanshan Merco Electric Bicycle Factory(以下Merco)が、電動モビリティ事業の拡大を発表した。これまでの主力は電動自転車だが、今後は電動バイクと電動三輪車も製品群に加える。想定する用途は、都市部の通勤や近距離の移動から、配送などの業務利用までと幅広い。発表の趣旨は、電動自転車だけを作る専業メーカーから、軽量な電動車両を複数扱う総合企業へ軸足を移す点にある。ただし広報用のリリースであり、販売台数や投資額などの数字は示されていない。本稿では、この動きが持つ意味を読み解く。
引用元: Merco、電動自転車を含む電動モビリティ事業を拡大(The National Law Review)
分析・見解
電動自転車の専業では、価格競争で利益が残りにくい
中国の電動二輪車は、保有台数が3億台を超えるとされる巨大市場である。山東省や江蘇省、天津などには、完成車と部品の工場が密集している。その結果、電動自転車は作れる企業が多く、価格で差をつけにくい商品になった。専業のままでは、原材料の値上がりや規制変更が、そのまま利益を直撃する。
そこで多くのメーカーは、製品の幅を広げて工場の稼働を安定させようとする。電動自転車、電動バイク、電動三輪車は、モーター、制御装置、電池、フレームといった中核部品の多くを共通にできる。同じ調達力で売り先の違う三つの商品を作れば、一つが不調でも他で補える。
三つの製品は、同じ車に見えて規格がまったく違う
ただし、拡大は見た目ほど簡単ではない。中国では電動自転車に、最高時速25キロ、車体重量55キロ以下などを定めた国家規格(GB 17761-2018)がある。これを超える製品は電動バイク扱いになり、免許、ナンバー、保険が必要になる。三輪車はさらに別の扱いで、寸法や積載の基準も異なる。
つまり、製品を増やすことは、認証と販売の手続きを三倍にすることでもある。部品が共通でも、設計の許容範囲と必要書類は別物だ。ここを軽く見ると、新製品を出した途端に検査や販売停止で足をすくわれる。
業務用途への進出が、実は今回の最大の変化
個人向けの電動自転車は、流行や価格に左右されやすい。一方、配送や集荷に使う三輪車は、法人がまとめて買い、壊れても修理して使い続ける。ここで求められるのは、見た目より積載量、航続距離、修理のしやすさである。日本でも配送会社が電動アシスト付きの三輪車や自転車を街中の配達に使い始めており、最後の一区間の配送は電動化の有力な受け皿だ。
私が注目するのは、この変化が売り方を変える点だ。個人向けは店頭と通販が中心だが、法人向けはリースや整備契約とセットになる。製品が増えるほど、販売後の面倒を見る力が競争力になる。
海外市場では関税と電池の安全性が壁になる
輸出を考えると、壁はさらに高い。欧州連合は中国製電動自転車に反ダンピング関税(=不当に安い輸出品への上乗せ関税)をかけており、米国の追加関税も重い。加えて、リチウム電池の発火事故が各国で問題になり、ニューヨーク市は電池の安全認証を義務づけた。台数を売るだけでなく、電池の品質を証明できる企業が残る時代に入っている。
Mercoの発表が本物の転換かどうかは、認証の取得状況と電池の調達先、そして業務用の導入先がどこまで具体的に示されるかで判断できる。看板だけの拡大なのか、設計から作り直した拡大なのかは、今後の追加情報で分かる。
ビジネスへの影響
取引先の製品拡大は、仕入れ条件を見直す好機になる
中国メーカーと取引する輸入業者や小売店にとって、製品が増えるのは選択肢が増えることだ。電動自転車で信頼できた工場なら、三輪車を同じ窓口で調達できるかもしれない。窓口が一本化されれば、連絡や輸送の手間が減り、まとめ買いによる値引き交渉もしやすい。
ただし、得意でない分野に急に手を広げた工場は、品質が安定しないことが多い。新カテゴリーは、最初から大量に発注せず、少量の試験輸入から始めるのが無難だ。また、価格だけで比べず、三年後の部品供給が続くかも確認材料に入れたい。
発注前に確認したい書類と、電池まわりの検査項目
契約の前に、少なくとも次の点を確かめたい。第一に、販売先の国で通用する認証があるか。欧州ならCEマーク、電池ならUL 2849やUN 38.3といった試験報告書が目安になる。第二に、製品の最高速度や出力が、販売先の区分に合っているか。電動自転車として売るつもりが、実際は電動バイク扱いだった、という失敗は珍しくない。第三に、電池の供給元と保証期間である。
業務用の三輪車を扱う場合は、さらに補修部品の在庫と、故障時の対応時間を契約書に書き込むとよい。法人客は、車両が止まる日数をそのまま損失と考えるからだ。
日本の事業者は、規制の違いを強みに変えられる
日本では、電動アシスト自転車は人の力を補う範囲に厳しい基準があり、ペダルなしで走る車両は原動機付自転車や特定小型原動機付自転車として扱われる。中国向けの設計をそのまま持ち込めない。だからこそ、日本の基準に合わせた調整や整備、保険を一括で提供できる事業者には価値がある。
製品を作る側ではなく、売って支える側に付加価値が移る。具体的には、輸入、整備、保険、配送の四つを一つの窓口にまとめる方法がある。この見方で事業を組み立てるのが、今回の動きから得られる実務的な示唆である。